被告人を一日でも生きながらえさせるために、批判を覚悟で殺意を否認したもの と考えられます<元検弁護士のつぶやき>

光市母子殺害事件の上告審弁論について

 裁判を傍聴したわけではありませんので、報道で知る限りですが、弁護団は、少なくともお母さんに対する殺意を否認し、傷害致死であると主張したようです。

 しかし、控訴審判決を読んでみますと、一審二審を通じて、被告・弁護側は、殺害の計画性は争ったものの、被害者両名に対する殺意そのものは争っていないようです。
 ちなみに、一審判決に対する控訴は検察官だけがしており、2名に対する殺人を認定して無期懲役に処した一審判決に対して被告・弁護側は控訴していません。
 さらに言えば、先のエントリでも指摘しましたが、被告人の手紙は、殺意がなかったものの出す手紙ではありえません。
 本件が殺人については計画のない事案であるとすると(一審と二審はそう認定しています)、お母さんに対する殺意の不存在は、子供さんに対する殺意の不存在を推認させることになり、傷害致死1件と強姦致死1件の事案になるはずですが、もしそうなら無期懲役の量刑は宣告可能な最高刑でありますから、被告人においては極めて不満な判決であったはずであり、当時少年であった被告人に対する量刑としては重すぎるとして、当然被告人及び弁護人が控訴したはずです。
 検察官も控訴しているのですから、被告・弁護側としては、ダメもとでも控訴して損はなかったはずです。

 ところが被告人の出した手紙の内容は、死刑を免れてほっとする内容であり、控訴もしていないことからしますと、これはもう他の証拠を見なくても、被告人が殺意をもって2名を殺害(変な言い方ですが)したことは明らかであると思われます。

 このような経過に照らしますと、安田弁護士らが指摘する、鑑定書(たぶん司法解剖に関するもの)によれば手の向きが逆である、程度の主張で(テレビの記者会見ではそのように言っておられました。)、2名に対する殺意の認定が覆ることは、100%ないと言っていいと思います。

 そして安田弁護士ほどの経験豊富な刑事弁護士が、それを分かっていないとは思われません。

 では何故、安田弁護士らは傷害致死の主張をこの時点で持ち出したのか?

 もちろん推測になりますが、死刑廃止論者の安田弁護士としては、死刑判決が回避困難だとしても、被告人を一日でも生きながらえさせるために、批判を覚悟で殺意を否認したものと考えられます。

 ちょっと説明がいりますが、最高裁が原審の無期懲役判決を軽すぎて不当だと考えた場合の判決としては、最高裁が原判決を破棄して、死刑を自判、つまり最高裁自身が死刑判決を宣告する場合と、原判決を破棄して審理をいったん高裁に差し戻す判決をする場合があります。

 つまり、安田弁護士が今現実問題として考えていることは、最高裁が死刑を自判することを回避したい、ということではないかと思っています。
 最高裁が死刑を自判してしまいますと、その時点で死刑が確定してしまいますが、差し戻しになれば、控訴審審理の期間及び控訴審判決に対する上告審の審理期間、死刑の確定を阻止できるからです。

 刑事訴訟法第413条は

前条に規定する理由(注、管轄違い)以外の理由によつて原判決を破棄するときは、判決で、事件を原裁判所若しくは第一審裁判所に差し戻し、又はこれらと同等の他の裁判所に移送しなければならない。但し、上告裁判所は、訴訟記録並びに原裁判所及び第一審裁判所において取り調べた証拠によつて、直ちに判決をすることができるものと認めるときは、被告事件について更に判決をすることができる。

と規定していますが、弁護団としては、最高裁が「訴訟記録並びに原裁判所及び第一審裁判所において取り調べた証拠によつて、直ちに判決をすることができるものと認め」ないように、新たな争点を持ち出したものと考えられるわけです。

 もっとも、最高裁として、弁護人が傷害致死の主張をしないでも自判はせずに、差し戻すことが予想されます。
 有名な永山判決においても、最高裁は

以上の事情を総合すると、本件記録に顕れた証拠関係の下においては、被告人の罪責は誠に重大であつて、原判決が被告人に有利な事情として指摘する点を考慮に入れても、いまだ被告人を死刑に処するのが重きに失するとした原判断に十分な理由があるとは認められない。  そうすると、第一審の死刑判決を破棄して被告人を無期懲役に処した原判決は、量刑の前提となる事実の個別的な認定及びその総合的な評価を誤り、甚だしく刑の量定を誤つたものであつて、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認めざるをえない。 四 よつて、刑訴法四一一条二号により原判決を破棄し、本件事案の重大性、特殊性にかんがみ更に慎重な審理を尽くさせるため、同法四一三条本文により本件を原裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

と判示して、事件を高裁に差し戻しています。
 本件もそのようになる可能性が高いと予想しています。

 ご遺族としては、最高裁による死刑判決を望んでいると思いますが、裁判所の死刑事件に対する慎重審理という姿勢からしますと、死刑という重大な判決を、最高裁といえども一つの裁判所だけの判断で確定させてしまうのは適当でないと考えているでしょうし、最高裁は法律審であるという建前からも、いったん高裁に量刑の見直しをさせるために差し戻すことになるだろうと予測しています。

 もっとも、最高裁が、「無期懲役では軽すぎる」と判断した以上、高裁はそれに拘束されますから、高裁としては事実認定や量刑に重大な影響を及ぼす新たな証拠が出てこない限り、死刑判決をするしかないわけであり、新たな証拠が出てくる可能性は本件ではなさそうですから、いずれは死刑判決が確定することになりそうです。

 そうなりますと、本件の裁判はさらに長期化しますが、長期化の原因の所在を敢えて指摘するとしますと、結果論ではありますが、安田弁護士ら弁護人側にあるのではなく、無期懲役を宣告した原審の高裁にあると言うべきでしょう。

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モトケン (2006年4月19日 14:20) | コメント(58) | トラックバック(19) このエントリーを含むはてなブックマーク  (Top)

引用:光市母子殺害事件の上告審弁論について – 元検弁護士のつぶやき

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